iwapenの日記

60歳にして考古学を学びに大学に入りました。また、社会や政治についても思いの丈を発信してます。

米TVドラマ「ザ・パシフィック」を見て

 第二次大戦、日本が占領していた南太平洋のガダルカナル島やペリリュー島などでの日米の太平洋戦争を舞台に実話をもとにしたテレビシリーズ。2010年に放映。現在、アマゾンビデオで視聴できる。全10話。

 元海兵隊ユージーン・スレッジのノンフィクション作品『ペリリュー・沖縄戦記』と、同じく元海兵隊ロバート・レッキーの回想記『南太平洋戦記―ガダルカナルからペリリューへ』に加え、議会名誉勲章受章者である海兵隊ジョン・バジロン一等軍曹のエピソードを基にして脚本化。物語は彼ら3人を中心にして描かれている。

 

 まず、このドラマを見ての何よりの感想は、戦場の描写があまりにリアルで、今冗談を言い合っていた仲間がたった一発の銃弾で目の前で倒れ死体となる様や、わずか数ⅿの距離を移動する途中に機銃や迫撃弾で兵士の足や腕や内臓を吹き飛ばされる様、激戦の後は日米両兵士の死体が浜辺やジャングルの泥の中で死屍累々と横たわっている様など、あまりにも簡単に偶然に人が次から次と死んでいく戦場の現実に、何度となく息を止めてしまうこともあった。

 

 そして、このドラマを最後まで見たのは、私の既成概念を大きく変えていったからだ。これまで太平洋の島々での日米の闘いは、日米の産業力・軍事力の圧倒的な差がそのまま戦場でも現れ、日本軍が旧式の威力の弱い兵器で散発的な攻撃しかできず最後は万歳突撃で玉砕していくのに対し、米軍は制空権も制海権も抑え、艦砲射撃と空爆によって圧倒的な威力と砲弾の量で日本軍の拠点をほとんど殲滅したのち、海兵隊の兵士が安全になった島に上陸すると思っていた。したがって陸戦兵士はほとんど日本軍の攻撃を受けることも無く進撃していくことができたとイメージしていたが、それが全くの思い違いであった。

 実際には、ガダルカナル島でも、まず、上陸そのものが命がけで、日本軍の機銃掃射の雨嵐の中、遮蔽物の無い浜辺で次から次と米兵が死んでいった。また、揚陸艦への爆撃が直撃し、陸に上がるまでもなく木っ端みじんに吹き飛ばされ、100人規模の兵士が一瞬で死んでいった。対ドイツ戦のノルマンディー上陸作戦では、オマハビーチの浜辺を数ⅿ進むのに、何百人という連合軍兵士が亡くなっていったとされるが、それに匹敵する状況であった。

 また、ようやく抑えた拠点にも日本兵は執拗に夜も昼も奇襲をかけて、そのたびに、多くの米兵も亡くなった。NHKでかつてガダルカナル島の戦闘を再現していたが、日本兵がやみくもに突撃するところへ、米軍が大量の機関銃掃射で対応し、米軍にはほとんど危害を加えることができなかったというものだったが、米軍サイドから見ると全く違う両軍命がけの戦闘であったことがわかる。

 ペリリュー島では、初めから米軍の空爆や艦砲射撃のダメージを受けない陣地設置をしており、火力も兵士も十分に温存していた。中には厚さ3mにもなるトーチカを構築し、そこから発せられる機銃掃射は米兵の死体の山を築いた。兵士たちは、来る日も来る日も、日本軍の的確かつ重厚な攻撃に、次は自分が砲弾で吹き飛ばされるかもしれないという恐怖の中を前進していた。結果、海兵隊員たちの戦死率は隊の7割ほどにまで達し、それでも兵士の補充ができずに戦況は苦しくなる一方であった。また、日本軍の粘り強いゲリラ戦は夜も昼もなく、とりわけ夜は足音もなく塹壕近くまで忍び寄り手りゅう弾や銃剣で次から次と米兵たちが殺された。そのため、夜も寝ることができず兵士たちは疲弊する。しかも物量に優れる米軍ではるが、険しいジャングルで輸送車が使えず、最前線には銃弾や食料や水さえ途絶えた。兵士たちは泥沼のジャングルのなか、戦闘だけでなく飲まず食わずの死に物狂いのサバイバルを強いられていた。

 何より、日米兵士たちの距離感が想像以上に近いのだ。両兵士が素手で殴り合うこともあったり、1m先に突然、現れる日本軍兵士を撃ち殺し返り血を浴びることもしばしば。逆に、日本軍兵士に銃撃され真横にいる仲間が一瞬で崩れ落ちることも。結果、戦場には、日米両軍兵士の死体が折り重なって累々と積み重なり、死体は片付けられることも無くそのまま腐敗しウジがわき、腐敗臭を放つ中でかろうじて支給された缶詰を開けて食べ、死体のすぐ近くの塹壕で仮眠をとるようなこともしばしばであった。

 また、沖縄戦では、日本軍が民間女性の腹にダイナマイトを巻いて米軍側へ「避難」させ、その民間人を背後から日本兵が銃撃して米兵もろとも爆破する場面もあった。さらに逃げ場を失った日本兵が民間人を自分の盾として逃げようとし、民間人もろとも銃撃されて死んでいく場面もあった。ガマに避難していた沖縄県民を日本兵が放り出したり、ガマの中で泣き騒ぐ子供を刺し殺したりという犯罪行為はよく指摘されてきたが、米兵が目撃したこのような民間人を犠牲にした日本軍の「戦い方」に改めて怒りを感じた。

 このような戦況のなか、ドラマに登場する兵士も次から次と心を病み、戦後も、しばらく立ち直れない兵士もいた。

 ともかく、南太平洋の島々での日米の戦闘については、論文や小説などは多数あるが、やはり映像ならではのリアル感は、比べ物にならない。戦争の実相が見事に表現されている。ぜひ、多くに人に見てもらいたい作品だ。そして、戦後75年たち、ほぼ戦場体験者がいくなる中、多くの日本人が戦争と言うものの冷徹かつ野蛮な行いを忘却し、それゆえにまたぞろ戦争ができる国にしようとする政治の流れが出てきているが、多くの日本人がこの作品を見て、再考してほしいと思う。

 改憲とか、自衛隊を戦闘できる軍隊にとか、尖閣諸島竹島を戦争で確保すべきだなどと、勇ましく大きな声で唱える右翼たちは、この映像に見られるような戦場に自分の身を投じることを想像しているのだろうか。私は、このドラマを見て、絶対に戦場などに行きたくないし、誰にも行ってほしくないと思った。そして、日本を1ミリでも戦争に近づけてはならないと改めて思った。