iwapenの日記

60歳にして考古学を学びに大学に入りました。また、社会や政治についても思いの丈を発信してます。

慰安婦問題について 永井和氏の論文より

永井和氏は、橘大学歴史学科の教授。現在、ぼくが橘大学で講義を受けている先生。
先生のホームページを見ると、すごい論文が掲載されていた。
本論文の意義は、単に政府・軍が慰安婦慰安婦施設を組織的に設置していたという事実の論証だけでなく、政府・軍・警察が一体となって、慰安婦を集めて海外に送る行為を民間業者に公認してやらせつつ、その公認した事実も募集行為も非公然化させ、さらに組織的に隠蔽していたという事実を、史料に基いて論証されている点だ。画期的な論文だと思う。ぜひ、読んでほしい。

慰安婦問題で、決定的な証拠に基づく論文だ。
本論では、慰安婦施設は、日本軍が組織的に直接的に動いて設置したということが明瞭に示される。ただし、あくまで慰安婦の募集は民間業者に委託していた。しかし、当時の法律でも慰安婦を集めて海外に送ることは違法であった。ましてや正義の戦争を戦う皇軍にそのような醜悪な恥ずべき施設はあってはならないという認識を国家・軍も持ちながらなので、その業者の脱法行為を隠蔽し、決して軍に許可され依頼を受けたなどと公言させないよう、各県警察にも通達を出し徹底させた。そして、本来その違法行為を取り締まるべき警察もグルになって、違法で醜悪な慰安婦募集活動を公然化させない点だけに規制をかけ、何としても一定数の慰安婦を確保すべく務めたという。最後は領事館も違法な慰安婦の中国への渡航を許可したということである。まさに国家挙げての違法かつ醜悪な行為を行って慰安婦を集めていたと言うことだ。
さらに、1941年になると、慰安婦施設の設置は、軍経理将校の任務となり、公然と軍隊が慰安所を付属させた。ただし、あくまで民間業者への委託であるが、その業者は軍属とされ軍人と同じ制服を着服させ、第三者には軍組織の一員としか思えない状況であった。

一部、抜粋する。
公娼制度のもと、国家は売春を公認してはいたが、それは建て前としては、あくまでも陋習になずむ無知なる人民を哀れんでのことであり、売春は道徳的に恥ずべき行為=「醜業」であり、娼婦は「醜業婦」にすぎなかった。国家にとってはその営業を容認するかわりに、風紀を乱さぬよう厳重な規制をほどこし、そこから税金を取り立てるべき生業だったのである。
しかし、中国との戦争が本格化するや、その関係は一変する。いまや出征将兵の性欲処理労働に従事する女性が軍紀と衛生の維持のため必須の存在と目され、性的労働力は広義の軍要員(あるいは当時の軍の意識に即して言えば「軍需品」と言った方がよいかも知れない)となり、それを軍に供給する売春業者はいまや軍の御用商人となったのである。》
《国家と性の関係は現実に大きく転換したが、売春=性的労働を「公序良俗」に反する行為、道徳的に「恥ずべき行為」であるとする意識、さらに慰安婦を「醜業婦」と見なす意識はそのまま保持され続け、そこに生じた乖離が上記のような隠蔽政策を生み出すにいたった。慰安婦は軍・国家から性的「奉仕」を要求されると同時に、その関係を軍・国家によってたえず否認され続ける女性達であった。このこと自体が、すでに象徴的な意味においてレイプといってよいだろう》

以上が、要約・抜粋であるが、さすが史料実証主義を自認される先生らしい論文だ。自由主義史観とされる連中の議論がいかに的外れで史料を無視したものかもよくわかる。さらに、彼らは「強制連行」の有無に問題の焦点をあえて限定し、さらに史料を歪曲して、あたかも軍が「強制連行」しないように指導したとまで事実をゆがめて主張する。結果、一番の問題点である軍・国家が組織的に慰安婦施設を設けていた点については、当時の国家・軍・警察、さらに今日の安倍政権と同じく、隠蔽している点は、まさに同じ穴の狢だと言わざるを得ない。

 

http://nagaikazu.la.coocan.jp/works/guniansyo.html#SEC2