iwapenの日記

60歳にして考古学を学びに大学に入りました。また、社会や政治についても思いの丈を発信してます。

コロナ自粛で読む本 『銃・病原菌・鉄』ジャレド・ダイアモンド

 

コロナ禍で、自宅での自粛が長くなってきました。こんなときこそ、家の中で踊ろうとか、家族で楽しく過ごそうとか、友達とオンライン飲み会をやろうとかいろいろ時間の過ごし方はあるでしょう。それもいいが、骨太な本を、じっくり時間をかけて読むというのも有益なことではないでしょうか。それこそ、孤独を紛らわせるのではなく、孤独を大切に利用するのです。
たとえばペストが大流行した西欧では、終息後、ご存じのルネサンスの花が咲いた。これは、家に籠った人々が、たくさんの古典と言われる本を読んだり、思索にふけったり、芸術的創作活動にいそしんだりした成果だと言われます。日頃は、仕事もさることながら、当時もお付き合いの多い社会。そうしたことが無くなり、一人きりの孤独な時間がたっぷりあり、一人自分と向き合うことができたことで、科学上の発明や創造的な作品作りをもたらしたのです。

今回、私が紹介するのは、タイトルからして今ぴったりの本、
ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』。
では、内容に入ります。
タイトルの 「銃・病原菌・鉄」 は、15世紀以降のヨーロッパ社会による新大陸征服を可能とした「武器」になったものです。
最終氷河期が終わった紀元前1万1000年をみると、世界の各大陸に分散していた人類は、みな狩猟採集生活をおくっていた。しかしその後、人類はそれぞれの大陸ごとに異なる発展をし、技術や政治構造の不均衡が生じていった。そしてヨーロッパ社会が新世界を発見した西暦1500年の時点では、各大陸間で技術や政治構造に大きな格差が生じ、鋼鉄製の武器を持った帝国がそれらを持たない民族を侵略、征服し、滅亡させた。

他文明を征服できるような技術が発達する第一条件は定住生活にある。狩猟生活のままでは以下のことが獲得できないからだ。しかも、定住生活を可能とするのは、栽培可能な植物種と家畜化可能な動物種の豊富さである。そして、植物栽培や家畜の飼育で人口は増加し、余剰生産物が生まれる。その結果、役人や軍人、技術者といった専門職が発生し、鉄生産による強力な武器を得、情報を伝達するための文字も発達していく。また、重要なのは、家畜化にともなう動物由来の伝染病に対する免疫力も発達していたことだ。家畜化可能な動物種が少ないと、病原菌への免疫力も生まれない。

そして、ヨーロッパや中国を含むユーラシア大陸は、他の大陸に比べて、栽培可能な植物、家畜化できる動物、両方に恵まれいち早く定住生活を確立し、国家文明を生み出した。さらに、地形的にも、他文明の技術を取り入れて利用できる交易路も確保されていた。逆に、南北アメリカ、オーストラリア、アフリカはこうした要因を生み出せる栽培可能な植物種にも、簡単に家畜化可能な大型哺乳動物にも恵まれていなかった。それがユーラシア大陸とその他の大陸との決定的な違いであった。

こうした大陸間での栽培可能植物種・家畜化可能動物種の違いを生んだ原因は、地形の違いにあった。ユーラシア大陸が東西に広がり同緯度で繋がる大陸であったことで、豊かな植物相・動物相が育くまれ、また、人がそれらを遠くまで伝播させることもできた。これに対し、アフリカ大陸もアメリカ大陸も南北に長く、気候も異なり、山脈や砂漠に妨げられ、同緯度帯の繋がりも妨げられる地形にある。だから、動植物相も豊かさと大きな広がりを持つことができず、人も移動と交流を制約され、ユーラシア大陸でいち早く獲得できた定住生活とそれ以降の発展が阻まれてしまった。

つまり、ダイアモンドは、銃と病原菌と鉄で侵略支配していった西欧人が優秀で、逆に侵略されたアフリカ・オーストラリア・アメリカ大陸のそれぞれの先住民が能力的に劣っていたのではないと言う。ユーラシア大陸の文明の発展は、ひとえに環境の贈り物であったと。
ダイアモンドは「歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない」 と述べ、差別的な考えをきっぱりと否定します。まさに、これによって本書は良質な読む価値ある本になっていると言えます。

以上が、概略です。あとは本文を読んでください。少しだけ、ポイントを絞って敷衍します。

栽培について
栽培化や家畜化のためには適性をもつ野生の動植物種の存在が必要だが、その数や種類は大陸ごとに異なっていた。世界で最初に農業が開始されたとされるメソポタミアの肥沃三日月地帯で栽培された小麦や大麦、エンドウの祖先である野生種は、大量採集可能、発芽が容易、成長が早い、貯蔵が容易、自家受粉タイプである等々の栽培化に有用な特性を、すでにいくつも持ち合わせていた。
一方、著者は、作物を育てるのに適している自然条件でありながら、農業が自発的に始まらなかった地域や、よそより遅れた地域があるのは、食糧生産を開始するのに見あう野生植物が存在しなかったからだとする。人類が主として栽培に用いている顕花植物は、種類自体は20万種と多様だが、人間が食べられるのはそのうち数千種、実際に栽培化されているのは数百種に過ぎない。しかも栽培植物の多くは生活基盤として食生活や文明を支えるに足る植物ではなく、世界で消費される農作物の80パーセントはわずか十数種類の植物で占められている。そうした主要作物のすべてが数千年前にユーラシア大陸で栽培化されており、新しい主要作物となるような植物は近世以降一つも栽培化されていない。
メソポタミアの肥沃三日月地帯では、農作物として育成できるような野生種が豊富に、しかも群生して存在しており、野生種をそのままの形で栽培化できた。それに対してたとえば北米の東海岸では、気候は農業に適していたにもかかわらず、大麦や小麦のような有用な野生の穀類は自生しておらず、その結果、人口の爆発的増加を促すような食糧生産システムは生まれなかった。オーストラリア大陸やアフリカ大陸も同様。

家畜について
家畜化にあたっては、対象動物が、成長速度、繁殖、気性、行動の習性(社会性の形成)等の点で適性を備えていることが必要。更新世の終わりころには、南北アメリカ大陸やオーストラリア大陸では、家畜化の対象となりうる哺乳動物が絶滅してしまったのに対し、家畜化しやすい大型哺乳類がほとんどユーラシア大陸に独占的に存在したのだ。これでは、大陸間で大きな差が起きてもやむを得ない。
ところで、大型哺乳類と言えば、アフリカにこそ多種・大量に生息する。しかし、実は、アフリカに現存する野生哺乳類は、すべて家畜に適さないものばかり。シマウマなど、馬に似ており家畜化できそうだが、気性が荒く乗ることなど不可能だと言う。また、多くの野生種は人前で生殖行動をしたがらず、それに対し現在家畜化された動物はすべてどこでも生殖行為をする。だから、繁殖もさせやすい。加えて、縄張り意識が強すぎる動物も家畜化には向かない。広大なエリアにわずかにしか飼えないようでは柵にも入れられず効率が悪く家畜化できない。こうした家畜にとって不都合な動物だけがアフリカに残っている。
もし、サイやカバやクマが人間の手で家畜化できたなら、軍事用としては馬より強く最強であっただろうとダイアモンドは言う。しかし、サイやカバやクマは、獰猛でとても人間の飼育・家畜化になじまなかった。ゾウは観光用や使役用としてタイなどで飼育されているが、繁殖は困難で、かつ大量のえさを必要とし家畜化に適さないという。

病原菌について
畜産の開始は、天然痘、インフルエンザ、結核マラリア、ペスト、はしかといった、重篤な症状を引き起こす感染症を人類にもたらした。現在家畜化された動物(牛・馬・豚・ヒツジ・ヤギ・ニワトリなど)のほとんどを有するユーラシア大陸では、伝染病にもいち早く適応してきた。歴史的に繰り返し病原菌の攻撃にさらされてきた地域の民族は、しだいにその病原菌に対する抵抗力を持つ人びとの割合が増加していく。
それに対し、こうした家畜化できる動物がいなかった大陸では、当然、病原菌に対しても免疫が無く、ユーラシア大陸の人間に接した民族は、甚大な被害を受けることになる。ヨーロッパのアメリカ大陸征服において、膨大な数の原住民が殺りくされているが、それよりもはるかに多い数の原住民が、ヨーロッパが持ち込んだ病原菌の犠牲になった。メキシコでは2千万人だった人口が天然痘により160万人まで激減。北米でも本格的侵攻前に海岸地域に上陸していたスペイン人が持ち込んだ病原菌が、北米内陸部まで広がり、スペイン人が本格的に内陸部に侵攻したときには多くの先住民集落が廃墟と化していたという。
こうしてユーラシア大陸を起源とする病原菌は、世界各地で先住民の人口を激減、あるいは滅亡させ、さまざまな歴史的局面で結果を左右するような決定的な役割を演じた。
本書のタイトルは侵略の武器となったものだと書きましたが、病原菌こそ最大の武器だったのです。

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